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豊田 喜久夫

代表取締役会長
最高経営責任者(CEO)

1兆円企業となった今、
社会課題解決を通じた
新たな企業価値の創造が
当社グループの目指す姿です。

売上収益1兆円を達成

産業ガスを事業基盤とする3社が集まって2000年にスタートしたエア・ウォーターは、産業ガスを起源とする関連型多角化によって、グループとしての総合力を高めてまいりました。2022年度にはグループ一丸となって目指してきた売上収益1兆円を達成し、企業の成長ステージとして大きな節目を迎えました。

1兆円企業となったことで、ステークホルダーの皆さまや社会からの期待の高まりをこれまで以上に感じています。同時に、その期待に応えるとともに、さらなる成長を志向しながら、より一層の収益性・資本効率性を重視した経営に舵を切り、その先の価値を創出していくステージに入ったと気を引き締めています。当社グループには、1兆円企業を目指すなかで獲得してきた多様な事業、人材、技術という強みがあります。この強みを最大化させるとともに、存在感が高まった今だからこそ実現が可能となった、大手企業や大学、自治体などとの協業・連携を通じて、世界的な社会課題をビジネスチャンスに変え、既存事業だけでは実現することができない新たな成長を目指していきます。

これまでにないスピードで社会や経済が変化する現代において、持続的な成長を実現するために、会社や事業の形を絶えず変化させながら、社会課題の解決を通じて当社グループが世の中に提供する社会価値を高めていくことを最重要視し、経営に邁進してまいります。

私たちは、2050年サステナブルビジョン「地球、社会との共生により循環型社会を実現する」を掲げ、そのマイルストーンである2030年長期ビジョン「terrAWell30」のもとで社会課題の解決を通じた新たな企業価値の創造に取り組んでいます。

私には、当社グループがこのビジョンのもとで、多様な事業によって培った経営基盤を活かして、地球環境への負荷低減や人々の健やかな暮らしに貢献する、そして、地域社会やお客さま、従業員や株主の皆さまから選ばれ続け、さらに、持続的成長を通じて皆さまのご期待に応え続けることができる、そのような存在へと進化していく道筋が見えています。

ここではその道筋について、(1)当社グループが目指す姿、(2)成長方針、そして(3)課題と解決策、の順にお話ししたいと思います。

(1)当社グループが目指す姿
「地球環境」と「ウェルネス」で社会課題の解決に貢献

「terrAWell30」では、エネルギーの脱炭素化、人口増加、食料危機といった世界的な社会課題を踏まえ、当社グループが展開する多様な事業のベクトルを統合し、「地球環境」と「ウェルネス」という2つの成長軸を定めています。

地球環境

カーボンニュートラルが多くの国や企業の事業活動の前提となるなか、脱炭素化は避けることができない喫緊の、かつ長期にわたる課題です。エネルギーの安定供給と脱炭素化の両立が必要であり、製品のグリーン化ニーズも高まっています。また、AIやIoTが台頭するスマート社会への変化が急速に進むなかで、DXをはじめとしたデジタル技術への取り組みも求められています。

ウェルネス

“人生100年時代”が到来するなか、健康寿命の延伸や予防医療の高度化は重要な課題となっています。また、世界人口の増大に伴う食料難や地政学リスクの高まりを受けた食料安全保障問題を鑑みれば、農業・食品産業の拡充も不可欠です。

これらの社会課題は、リスクであると同時に当社グループにとっては大きなビジネスチャンスとなります。課題の本質を見極め、私たちが持つ多様な事業と人材、技術を活用することで解決策を提示し、当社グループが提供する社会価値を追求することが「terrAWell30」のテーマです。世界が激動し不確実性が高い社会において持続可能な未来につながる価値を追うことにより、新たな経済価値も必然的に生まれると確信しています。

(2)成長方針
「terrAWell30」実現に向けて

当社グループは、2000年からの第1の創業期で総合産業ガスメーカーとしてのポジションを確立し、2010年からの第2の創業期で全天候型の事業ポートフォリオを構築しました。そして、第3の創業期では、これまでの総仕上げとして2022年度に売上収益1兆円を達成し、2つの創業期に獲得した経営資源である「多様な事業、人材、技術」によるシナジーと、「1兆円企業としての存在感」を発揮することで、「社会課題解決を通じた新たな企業価値の創造」の道筋を描いています。

「terrAWell30」は、第3の創業期において、自社のマテリアリティに向き合い、サステナビリティ経営を推進していくための長期ビジョンであり、今後は国内を中心とした既存事業だけでは大きな成長を見込めないという前提に立ち、基本的な3つの成長方針を掲げています。

第一に、国内の既存事業について、グループ会社の統合再編をはじめとした事業の構造改革を継続するとともに、価格マネジメント、人材の最適配置、DXなどにより収益性を向上させ、稼ぐ力を高めていきます。

第二に、大型ガスプラント技術の獲得など、国内市場でこれまでに培ったエンジニアリング力に加え、2022年に実現した三井物産との戦略的提携を活かして今後の成長を海外に求めていきます。海外展開については、現在、インドと北米を重点戦略エリアとして産業ガス事業の拡大を加速しています。産業ガスの事業基盤を構築したうえで、将来的には、当社グループが保有する医療、環境・エネルギー、食品などの多様な事業や技術力を活かしたビジネス展開を目指しています。

第三に、時代の変化に対応するためにも、既存事業に依存せずに、技術によるイノベーションと各地域で構築した自治体や大学などとの社会関係資本を軸とした、地域の社会課題解決に貢献する新規事業の創出・探索を進めていきます。

「terrAWell30」では、そのための目標・指標として、経済価値(収益性、事業拡大、資本効率性)、社会価値(非財務指標、目指す社会)それぞれについて2030年度に「目指す水準」を定めています(詳しくは「terrAWell30の実現に向けて」をご参照ください)。

(3)課題と解決策
シナジーと変革を生み出す
企業文化の創出へ

当社グループには、当面の成長を支える収益基盤と強みがあります。そこから得られる利益とキャッシュを活用して新たなマーケットを自ら創り出し、事業へと育成し、サステナブルビジョンを実現していくために、今、CEOとして私がなすべきは、組織の「質」を高めること――具体的には、(1)変化に柔軟に対応し、変革を起こし続ける、(2)技術や人材、事業などの組み合わせでシナジーを自律的に創出できる、組織へと変えていくこと――です。

2019年に私がCEOに就任した際、当社グループは、カンパニー制による事業拡大を通じて、事業や人材の固定化が進んだ部分最適の状態に置かれており、最大の強みである多様な事業、人材、技術の全体最適化が図れていないことを重要な経営課題として認識しました。この課題を解消し、部分最適から全体最適へと移行するために、技術開発、エンジニアリング、ガスプロダクツなど、当社グループの成長に不可欠な機能について、グループ横断的に横串を入れる組織体制の構築に取り組んできました。

ユニット制を導入し、グループ一体経営としての高みを目指す

そして、2022年4月に多様な事業領域を4つのグループ(デジタル&インダストリー、エネルギーソリューション、ヘルス&セーフティー、アグリ&フーズ)に統合再編するとともに、ユニット制を導入し、エア・ウォーターの本体組織と傘下のグループ会社群が一体となったグループ経営体制に移行しました。また、2023年5月には、海外での事業展開を推進・統括するグローバル&エンジニアリンググループを新たに設置しています。

ユニット制では、事業運営の中核となるグループ会社の社長を本体組織の要職であるユニット長に抜擢することで、次世代経営人材の育成を目指しています。有能なグループ人材の発掘とともに、事業に精通した人材を責任者に抜擢することで、ユニットの全体戦略と事業推進の現場感覚との間に乖離が生じないようにしています。また、経営人材に登用される道が開かれたことでグループ従業員のモチベーションも向上することから、ユニット制は真のグループ一体経営を追求するための布石となります。

カンパニー制からユニット制に移行した大きな理由はここにあります。ユニット制の導入により、環境変化に合わせて事業とグループ会社のつながりを柔軟に変化させることができるとともに、グループ内での人材流動化も進み、組織が活性化しています。売上収益1兆円の達成にはグループ会社の業績拡大が大きく貢献したわけですが、その背景にはユニット制の存在がありました。

今後はユニット制を進化させ、エア・ウォーター本体組織と各事業領域で中核的な役割を担うグループ会社30社が一体となったグループ経営を推進していきます。多様なグループ会社の事業運営における特長を保ちながら、本体管理部門が中心となって資金や投資、ガバナンスなど各グループ会社における管理機能の高度共通化とさらなる人材の流動化を図るほか、そのためのデータ基盤整備や人事制度改革も同時に進めていきます。

人と事業は両輪、人的資本投資を重視

当社グループは、これまでM&Aや設備投資を重視してきましたが、これからの不確実性の高い時代においては、知的財産や人的資本、ブランド力といった無形資産に対する投資が重要だと考えています。

1兆円企業となったことで、当社グループへの期待が高まるなか、社会課題の解決に貢献するオープンイノベーションをはじめとした新たな価値創出のための仕組みを構築しています。

また、同時に「人を活かす経営」を目指し、グループ一体経営を進めていきます。人と事業は両輪であり、人材の成長がなければ、企業の成長は成り立ちません。

私は、人を育てるうえで一番大切なのは、気付きを与えること、そしてさまざまな部署で経験を積ませてできるだけ早い時期に責任ある立場に就かせることだと考えています。責任ある立場に就けば、見える景色が変わりますし、できることの範囲も広がります。当社グループのように多様な事業を持つ場所で、人材の最適な組み合わせを考え、事業の形を創り変えていくのは、アートのように無限の可能性を秘めています。

当社グループでは現在、従業員がさまざまな経験を積むことや自ら手を挙げることを奨励し、成果を挙げた従業員が公正に評価される人事制度への改革を進めています。チャレンジを貴び、グループ内で人材の流動化が進むようになれば、シナジー創出とともに自ら変革を生み出す企業文化も育ってくるものと考えています。

1兆円の「先」へ、私たちが新しい時代を創る

スマート社会や脱炭素社会、人生100年時代、食料自給率の向上などがメガトレンドである現代は、これまでよりも先行き不透明で変化の激しい時代となっています。そのような状況においては、メガトレンドを理解したうえで変化し続けることが大切であり、「変わるリスク」を取らないことこそが深刻なリスクとなります。

現在、当社グループは既存事業で稼ぐことができています。そのような時だからこそ、既存の価値観と成長が続くことを前提としたビジネスから脱却し、あえて変化を求め、さらに稼げる力をもって、新しい事業を創り出していかなくてはなりません。

1兆円を達成した企業だからこそ、社会課題の解決において私たちには何ができるのか。より高いところに視座を置き、一方で、今の私たちが持っている資産をよりよく活用し、新しい時代を創るための挑戦を続けてまいります。

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