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松林 良祐

代表取締役社長
COO・最高業務執行責任者

成長領域拡大をはじめとした
成長戦略の先導が、
COOとしての重要な役割です。

本年(2023年)4月1日付けでエア・ウォーター代表取締役社長・COO(最高業務執行責任者)に就任しました。2010年以来目標としてきたグループ売上収益1兆円を達成し、当社グループが新たなステージを迎えるタイミングで業務執行の先頭に立つことになり、身が引き締まる思いです。

私の役割は、CEOとともに、「成長領域の拡大」「新規事業創出」「既存事業の収益力強化」という方針のもと、2030年、そしてその先の成長戦略を描き、それを先導することです。ステークホルダーの皆さまのご期待に応えられるよう、全力で務めを果たす所存です。

産業ガス事業の歩みと成長戦略

当社の事業成長戦略を説明するうえで、祖業である産業ガス事業のこれまでの歩みを説明する必要があります。国内の産業ガス市場は2010年頃にピークを迎えた後、粗鋼生産量の減少と連動するように市場が停滞しています。そのなかで、当社は事業環境やユーザーの変化に適応することで持続的な成長を実現し続けています。このような持続的成長の実現を可能にした理由として、高純度窒素ガス発生装置「V1」やガストータルシステムといった技術開発と、それに基づいたビジネスモデル、そして中小型液化ガスプラント「VSU」の展開を基軸とした地域戦略が挙げられます。

当社は1980年の「V1」開発とともに、プラントの設計・製作からガスの製造・供給に加え、バックアップやメンテナンスを提供するガストータルシステムを考案し、半導体工場への窒素ガス供給のデファクトスタンダードモデルを構築しました。その後も、現場のデータを活用してプラント改善を継続するとともに、高効率化や大流量化などニーズの変化に適応する技術開発を続けてきたことが、現在、成長ドライバーのひとつであるエレクトロニクス事業拡大の礎となりました。

また、従来、産業ガスは湾岸部のコンビナート地区で大量集中生産後に需要地まで輸送して販売するのが常識でしたが、当社は需要地の近郊に需要に応じた中小型液化ガスプラントであるVSUを設置することで分散型サプライチェーンを構築。日本の産業構造の変化に伴うオンサイトプラント拠点の減少リスクや異常気象によるサプライチェーントラブルに貢献する画期的な地域密着型ガス供給モデルとして広がりを見せています。

このように、技術力の向上や地域密着の基盤構築といった強みが、産業ガスから医療、食品などへの当社グループの事業領域の拡大にも寄与してきました。この強みを、今後の成長領域の拡大、そして新規事業の創出に活かしてまいります。

成長領域の拡大と新規事業の創出に向けて

成長領域の拡大

現在、当社は、海外事業、特に北米およびインド、そしてエレクトロニクス事業を重点成長領域と定め、拡大を図っています。

北米では、産業ガスメジャーが市場の約85%を寡占する成熟市場への後発参入という難しい状況を打開するため、当社グループは、これらの産業ガスメジャーやガスディーラーを顧客として、当社が得意とする低温機器で基盤となる事業を構築するところから始めました。同時に、プラントエンジニアリングとVSUモデルの複合提案で現地ガスディーラーやユーザーとの接点を増やし、産業ガスメジャーとの差別化を図っています。2022年からは複数の地域でガスディーラーを買収するとともに、ニューヨーク州では初の自社製造拠点となるオンサイトプラントの建設に着手。さらに、北米全域を事業エリアとするヘリウム供給事業にも参入しました。今後は、VSUモデルでサプライチェーンの拡大を進めていくとともに、脱炭素を背景に新たな需要が期待される水素やCCU※の事業化を進めてまいります。

インドでは、東部・南部の鉄鋼オンサイト拠点の大型M&Aを起点に、優れたオペレーション・メンテナンス技術による安定・安全操業を提供したことで信頼を獲得し、世界で最も成長著しい市場で第3位のシェアを得るに至りました。また、新たに鉄鋼オンサイトの引き合いを数多く受けるなか、最近では、インド国営鉄鋼公社であるSAIL社から東部のドゥルガプル製鉄所向けオンサイトガス供給の受注が決まりました。当社グループのエンジニアリング力は、グローバル市場において、特に「質」の面で存在感のある産業ガスメーカーを目指す当社グループの戦略を力強く支え、成長領域の拡大に寄与しています(→グローバル&エンジニアリング)。

エレクトロニクス事業では、現在、国内の複数箇所でCMOSセンサー、DRAM、NANDフラッシュメモリーなどの大型半導体工場に向けたオンサイトプラントの建設が進行しています。国内の旺盛な半導体工場の新増設投資に対応し、オンサイトガス供給を基軸に関連事業を拡大、あわせて、成長市場である半導体・環境分野向けの商品開発を進めることで事業を伸ばしていきます。

※CCU「Carbon dioxide Capture and Utilization(二酸化炭素の分離回収と有効利用)」

新規事業の創出

当社は社会課題の解決を起点とした新規事業の創出にも積極的に取り組みます。現在、北海道で家畜ふん尿から発生するバイオガスを活用した地域循環型のクリーンエネルギーサプライチェーン構築に取り組んでおり、着実に成果を出しています。まさに、北海道で地域課題と向き合い続けてきた当社グループならではの新たなビジネスと言えます。

さらに、食料安全保障や食料自給率の向上が社会課題となるなか、青果物の調達・加工・販売までのバリューチェーンに、産地と消費地を結ぶ物流力を掛け合わせた「青果流通加工プラットフォーム」を強化しています。2023年2月、青果物の専門商社である㈱ベジテック、デリカフーズホールディングス㈱と協業体制を構築。同年10月には福岡県の仲卸、丸進青果㈱をグループ化し、安定供給体制の強化とあわせて、リスク分散のための新規産地開拓などを進めています。

さらなる成長領域拡大と新規事業創出に向けた技術戦略

当社は産業ガス事業で、コア技術や関連技術の開発とM&Aに取り組みながら、既存事業の強化・拡大、関連型多角化や海外への展開を進めて進化してまいりました。この過程で多種多様な開発人材や技術などのリソースを獲得できたことは、当社グループの大きな強みとなっています。

当社は、2023年5月に技術開発体制にかかる組織改革を実施しました。すべての事業領域で開発から事業化までの加速を促す体制を構築するとともに、新たに「ガス技術開発センター」を設置し、全事業の基盤であり、シナジーの源泉であるガス技術に特化した開発に注力しています。

また、海外事業強化に向けて「グローバル&エンジニアリンググループ」を発足させ、産業ガスの供給に不可欠な技術領域であるエンジニアリング体制のさらなる強化を図るとともに、グローバルガバナンス強化に向け、海外事業の管理機能を一元化しました。

今後も当社グループが保有する多様な技術を磨き上げるとともに、技術開発のリソースを融合させて複雑化する社会課題にソリューションを提供し、新たな社会価値につなげてまいります。

収益力強化に向けた取り組み

国内を中心とする既存事業については、現在、一層の収益力強化に向けた取り組みを複数進めています。既存事業は、効率化と改善が進めば確固たる収益基盤となります。今後、新規事業や成長分野に経営資源を投入するうえでも、既存事業での収益改善がその前提となります。そのために、各事業領域で現在の立ち位置の確認、いわゆる事業の総点検を実施し、グループにおいて発揮できるシナジーを加味したうえで、収益力向上に向けた施策を講じていきます。

当社が目指すグループ一体経営に向け、グループ会社の統合再編を継続して行うとともに、事業の総点検により、コスト上昇に対応した価格マネジメントに加え、低採算案件の見直し、人員の最適配置、物流・調達の効率化、事業拠点の在り方など、さまざまな角度から既存事業の収益力強化に向けた取り組みを進めていきます。また、こうした収益力強化とあわせ、在庫の適正化とCCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル )の短縮化を進め、資本効率性の向上にも取り組んでまいります。

従来、各事業の事業性評価は、事業に応じて評価軸を変えるということはなく、すべての事業に対して事業損益がその評価基準の中心となっていました。 しかし、成熟した事業と成長過程にある事業の事業性評価を同じ評価軸で行うべきではありません。今後は事業ごとに考え、必要に応じてROIC(投下資本利益率)などの資本効率性や市場成長性、社会貢献度といった複数の指標を複合的に組み合わせ、事業の特性に応じた評価指標を設定し、個々の事業の収益力強化、生産性改善に努めていきます。これらの取り組みの結果として、2030年度までに事業全体の営業利益率を10%以上に引き上げることを目標としています。

規律ある設備投資およびM&Aの遂行

また、成長領域を拡大するためには継続的な投資が不可欠であり、海外・エレクトロニクスを中心に旺盛な設備投資・M&A投資を行っていく予定です。経済活動の停滞が長期化した局面に備えて十分な財務の安全性を維持するため、また、成長領域に経営資源を集中投入するため、今後のM&A投資および設備投資についてはより丁寧に選別していきます。その一環として、ROIC検証の徹底、および投資検証機能の強化を図ってまいります。

投資検証については、過去に実施した投資案件の検証とともに、今年度より投資委員会の機能を見直しています。従来の投資委員会は投資の採算性確認とリスクの洗い出しおよび解決策支援が中心でしたが、新たな投資委員会では、投資立案部門と本社管理部門による案件の事業性評価に基づき、社長である私が投資実行の是非を判断しています。その際、会社の全体戦略との整合性や既存事業とのシナジー、事業計画の蓋がいぜんせい然性や実行体制、地政学リスク、出口戦略なども定性的・定量的に評価することで、当社グループの今後の成長にとって最適な選別を実施しています。

また、新規事業にかかる投資は、どのように事業の「種」を芽吹かせ、どう育て、どのような事業に仕上げていくかというプロセスやストーリーが肝要であり、そのストーリーに対して計画段階で仮説を立て、合理的な検証を行ったうえで実行に移すことが重要です。新規事業の投資検証では、「種」の段階で投資委員会での審査を行い、その後、検証を行っていくプロセスを定着させていきます。

財務規律および資本効率性指標

当社は、今後の成長戦略において旺盛な投資を計画していますが、財務規律は、親会社所有者帰属持分比率を36 〜40%、ネットD/Eレシオの目標レンジを0.8 〜1.0倍に設定し、健全性を維持します。また、資本効率性ではROE(親会社所有者帰属持分当期利益率)とROICの全社目標を設定し、2022年度のROE9.7%、ROIC5.6%を、それぞれ12%以上、8%以上に高めていきます。

株主還元

当社は、継続的な企業価値の向上を図るべく経営基盤の強化を進めていくと同時に、株主の皆さまへの利益還元を経営の最重要課題のひとつとして位置付け、利益の拡大により配当還元を増やすことを基本方針としています。具体的には、株主還元は配当性向30%以上を目標とし、業績に見合った安定的な配当を目指します。なお、2022年度の期末配当金は、1株当たり28円に加え、4円の記念配当※を実施しました。この結果、当事業年度の配当金は、中間配当28円、期末配当28円、記念配当4円を合わせて、年間60円、連結での配当性向は33.9%となり、これまでの10年間で2.5倍を超える配当金の増加を実現しました。

※2010年からグループ全社を挙げて取り組んできた「売上収益1兆円」を達成したことを記念

サステナブルな社会の実現に向けて

当社グループの事業活動における最大の前提は「地球環境に対して持続可能な事業活動であること」です。当社グループの営みはすべて、2050年に向けたサステナブルビジョン「地球、社会との共生により循環型社会を実現する」とパーパス「地球の恵みを、社会の望みに。」のもとにあります。事業活動を通じて資源循環型社会の実現と、環境負荷ゼロ、さらに地球環境を再生するとともに、地域社会と顧客から選ばれ続け、働く人々のWell-beingを実現する企業グループを目指して、私たちは歩み続けます。

特に、気候変動への対応については「成功の柱(マテリアリティ)」のひとつとして、事業戦略との統合を図り、当社グループのGHG排出量削減という「責務」と、製品・事業を通じた社会のGHG排出削減という「貢献」の両面からカーボンニュートラルに取り組んでいます。具体的には、事業を通じたGHG削減への貢献として、産業ガス事業で培った精製・分離・貯蔵などのガスコントロール技術を駆使し、バイオガス、メタン、水素などのガス供給やCO₂回収・利活用といった低炭素・脱炭素に寄与するカーボンニュートラル技術の開発などを行っています。また、自らが排出するGHGの削減のために、生産工程で使用するエネルギーの低炭素化、省エネ設備などへの投資を含む省エネルギー活動を優先的に進めるとともに、段階的な再生可能エネルギーの活用拡大や低炭素な物流事業の構築などにも取り組みます。

ステークホルダーの皆さまへ

エア・ウォーターグループには、多様な事業と人材、技術があります。経営環境の変化に強い「全天候型」の経営基盤も、さらなる成長への足掛かりも、地域やお客さま、自治体や事業パートナーなどとのつながりも十分にあります。これらの経営資源が持つポテンシャルを最大限に発揮することができれば、より高い成長と価値創造の実現が可能であると私は確信しています。

細心に、時には大胆に戦略を遂行し、社会価値と経済価値の両面から企業価値を向上させ、世の中に「なくてはならない」存在へと当社グループを成長させるため、私は自らの役割を果たしてまいります。

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