成長戦略 FOCUS 4 :
ウェルネスを成長に取り込む

人々のウェルネス(健やかな暮らし)に関わる社会課題を解決することは、エア・ウォーターグループの使命であり、成長に向けた重要な領域でもあります。

超高齢社会の到来に伴う病床の不足や医療従事者の働き方改革、平均寿命と健康寿命のギャップなどが社会課題となるなか、当社グループは急性期医療のみならず、病院外での予防・未病・リハビリなども含めたヘルスケア分野における取り組みを通じて、健康寿命延伸に貢献していきます。

健康で充実した生活の基盤である「食」に関しては、世界人口の増加や気候変動などを背景とした長期的な食料不足が世界的な課題となっています。こうしたなか、当社グループは「青果流通加工プラットフォーム」の構築や「陸上養殖プラットフォーム」提供事業を通じて、食料自給率の向上につなげていきます。

Case 1. 「青果流通加工プラットフォーム」を強化

当社グループのアグリ(農産・加工)事業は、農産物の国内最大産地である北海道に事業基盤を有しています。契約栽培や原料野菜の調達を通じた生産者との強い結びつきをベースに、農産物を必要な形に加工し、タイムリーに供給する体制を整備し、新たな販路を開拓しています。特に、当社の特長である産地と消費地を結ぶ厚い物流力や、産業ガスによる鮮度保持をはじめとした技術力を活用し、「青果流通加工プラットフォーム」を強化しています。

一方、食料安全保障や食料自給率の向上が社会課題となるなか、国内の青果物市場は、生産農家の減少をはじめ、異常気象の常態化などが進み、青果物の安定供給の重要性が増しています。

こうしたなか、当社は2023年2月、青果物の専門商社で加工・仲卸を手掛ける㈱ベジテック、業務用ホール野菜やカット野菜を販売するデリカフーズホールディングス㈱と資本業務提携を通じた協業体制を構築。当社グループから両社への北海道産野菜の安定供給や、物流「2024年問題」に備えた原料保管拠点の設置、産地リスク分散のための新規産地開拓などを進めています。

2023年10月には、福岡市中央卸売市場の仲卸として最大で、量販店や食品メーカー、外食などに幅広い販路を持つ丸進青果㈱の株式51%を取得しグループ化しました。当社グループの主要産地である北海道との端境期を補完する九州で青果物の調達網を拡充し、産地の分散化による安定供給を確立するとともに、2024年2月に稼働を開始する「熊本低温物流センター」との連携も図っていきます。

業界大手との協業を通じて、青果物の調達網をより強固なものとし、加工・販売までのバリューチェーンと物流ネットワークをあわせ持つ「青果流通加工プラットフォーム」を強化。持続可能な国内農業の発展に寄与するとともに、産地と食卓をつなぎ、時代に応じた豊かな食文化を創出し、ウェルネスに貢献してまいります。

Case 2. 陸上養殖の産業化に取り組む

天然魚の漁獲量減少や漁業従事者の減少・高齢化が課題となるなか、養殖の中心となっている海面養殖は、生産量増大に限界があるほか、食べ残した餌料が海底に堆積し水質汚染につながるなどの環境問題も指摘されています。

これらの社会課題に対して、当社グループは2023年5月より北海道東神楽町において、寒冷地に適した飼育環境下でのサーモンの陸上養殖を開始しました。養殖に不可欠な酸素、エネルギー、人工海水などに加え、遠隔監視・鮮度保持などの技術を有する当社グループならではの強みを活かし、養殖プラントの設計から運転、メンテナンスまで一貫したパッケージで展開する「陸上養殖プラットフォーム」を提供しています。

「地球の恵みファーム・松本」(長野県松本市に2024年度完成予定)では、井戸水を利用した半閉鎖型のスマート陸上養殖プラントで、サーモンやバナメイエビの試験養殖を開始し、付帯設備や消耗品の開発、高効率化を図っていきます。初期投資を抑えた小規模・半閉鎖循環型スマート陸上養殖プラントの開発により、地産地消モデルとして日本各地へ展開。陸上養殖の産業化を通じて、今後もおいしい魚が手軽に食べられる世界の実現を目指し、食料自給率の向上に貢献していきます。

陸上養殖プラットフォームを構築

Case 3. 歯髄再生による健康寿命の延伸

体の健康に密接していることで、近年特に注目されている口腔内の健康。なかでも「自分の歯」を長く保つことが、健康寿命を延ばすひとつの鍵となります。当社グループのアエラスバイオ㈱では、ひどい虫歯やケガなどの損傷が原因で歯髄を失ってしまった歯に対しての新たな治療法「歯髄再生治療」を2020年に世界で初めて実用化。医療法人健康みらいRD歯科クリニックと共同で、全国で治療が受けられる体制を整えています。また、全国の歯科クリニックと連携し、不用歯からの歯髄幹細胞の採取、培養、保存、輸送を担うバンク事業を展開。培養した幹細胞は歯髄再生治療だけでなく、将来的には病気やケガで機能を失った臓器や組織を元通りにする再生治療に用いられることも期待されています(2023年11月現在、歯髄再生治療ができるクリニックは全国17施設、歯髄幹細胞バンクの抜歯提携歯科は182施設)。

2023年6月には、歯髄を守るように取り巻く象牙質まで再生する治療も実用化。再生された歯髄をより堅固な象牙質で覆うことで、歯全体の強度向上のほか、間隙の封鎖、再感染防止などの治療メリットが見込まれます。

さらに、二親等以内の家族の細胞を用いる「他家歯髄再生治療」の2027年頃の実用化を目指し、臨床研究を実施中。ひとつの不用歯から採取した細胞を多くの人に移植することも可能であることから、大量に品質の良い細胞を培養する研究も進めています。このように、口腔内の健康を実現する新しい歯科医療を確立し、より多くの人々のウェルネス(健やかな暮らし)に貢献していきます。

TOPICS 「地球環境」と「ウェルネス」双方で目指す
社会の象徴となるモデル施設
「地球の恵みファーム・松本」

当社は2022年10月から長野県松本市で、エネルギーの地産地消を目指した資源循環モデルの開発施設「地球の恵みファーム・松本」の建設に着手し、2024年度の完成を予定しています。同施設は「バイオマスガス化発電プラント」「メタン発酵プラント」「スマート陸上養殖プラント」「スマート農業ハウス」で構成。地域で発生する未利用バイオマス資源をガスや電気の生産に活用し、その際に発生する熱や炭酸ガスを陸上養殖や農業に利用します。「地球環境」と「ウェルネス」双方で目指す社会の象徴となるモデル施設です。

バイオマスガス化発電では、地域で処理に困っている竹や剪定枝なども発電燃料として利用可能で、タールが発生しないバイオマスガス化炉を国内で初めて導入。松本市内で多く発生している木質系一般廃棄物のほか、林地残材や間伐材などの未利用木材を種類問わず受け入れていきます。メタン発酵では、地域で発生する食品系廃棄物を収集し、バイオガスを発生させ、エネルギーや発電に利用するとともに、その残渣も肥料として無駄なく活用。養殖や農業の廃棄物もバイオマスガス化発電やメタン発酵の原料として再使用します。

人工海水を使った陸上養殖では、サーモンやバナメイエビを養殖。農業ハウスでは、炭酸ガスによる光合成の促進や熟練農家の栽培農法をプログラミングしたシステムを活用することで、トマトやイチゴなどの栽培環境の最適化を図ります。陸上養殖や農業に欠かせない酸素、炭酸ガス、人工海水などの商材とともに、今後、検証した資源循環モデルを地域の課題に合わせた形で他の地域でも展開していきます。脱炭素社会と人々の健やかな暮らしへの貢献と事業拡大の両立に向けた取り組みを加速していきます。

バイオマスガス化発電施設

陸上養殖プラント