成長戦略
FOCUS 1 :
グローバル&エンジニアリング
産業ガスメーカーとして
グローバル市場で存在感を示す
長期ビジョン「terrAWell30」の実現に向けた成長ドライバーのひとつが、海外事業です。当社グループはインドと北米を最重要エリアに定め、日本で培ったエンジニアリング力をテコに産業ガス事業のグローバル展開を推進しています。
インドと北米で海外展開に着手
当社はこれまで培ってきた強みを活かす市場環境がインド、北米それぞれで整っていると判断し、全社成長の牽引役と位置付けています。
インドは最大の産業ガスユーザーである鉄鋼業からの需要が旺盛で、GDPが年率7%で成長する高度経済成長期を迎えています。政府主導で自動車産業などの製造業の振興に向けたインフラ投資が進んでおり、2030年度までに年間粗鋼生産能力を現在の倍以上となる3億トンに拡大する目標を掲げています。製造業の成長には産業ガスの存在が不可欠であり、かつての日本の高度経済成長期と同様に、高い市場成長のポテンシャルを有しています。当社がこれまで日本の鉄鋼メーカーに提供してきたエンジニアリング技術やプラントオペレーションの優位性を発揮できると考え、重要戦略エリアと捉えています。
北米は日本のおよそ5倍の市場規模を有する世界最大の産業ガス市場です。半導体関連の製造プロセスや製薬・バイオテクノロジーにおける低温輸送技術など、ガス使用量を伸ばしている産業が複数存在します。また、脱炭素に関わる水素やCO₂回収などの新たな利用用途が広がっており、世界最先端の産業ガス消費国である北米市場での経験がグローバルマーケットにおける当社の競争力向上につながると考えています。
エンジニアリング力を軸に海外へ展開
当社は神戸製鋼所との合弁事業を通じて大型深冷空気分離プラントの技術を獲得し、エンジニアリング力を高めることで、プラントメーカーとしてのポジションを確立しました。また、日本のみならず、北米・アジア・欧州にもプラント・低温機器の製作拠点を設置し、あらゆる地域の需要をカバーするグローバルなエンジニアリング体制を確立しています。さらに、長年にわたり鉄鋼メーカーに向けたオンサイトガス供給で培った、顧客の安定・安全操業に寄与するオペレーション・メンテナンス技術も有しています。インドでは2019年に産業ガスメジャーの現地法人から事業を獲得し、同国で1、2位の規模を誇る製鉄所向けのオンサイトガス供給事業と、東部・南部を中心としたローリー・シリンダー事業の基盤を確固たるものにしました。こうしたプラントエンジニアリング技術やノウハウを活かし、産業ガスメジャーと互角にわたり合える力をつけ、インド、北米と海外事業へ注力していきます。
2022年より、当社と三井物産㈱はグローバル市場での産業ガスを中心とした事業拡大に向けて戦略的提携を進めています。当社のガス製造・供給に係る技術・ノウハウと同社の保有する化学・鉄鋼・エネルギーなどの情報ネットワークを活用し、インドや北米での産業ガス事業の拡大を加速させていきます。将来的には産業ガスの事業基盤を活かして、グローバル市場においても国内同様に医療や食品など他事業への展開にも果敢に挑んでまいります。
エア・ウォーターグループの主な海外拠点
G&Eグループ発足で事業成長・開発スピードを加速
当社はグローバル展開の加速に向け、産業ガス事業に関わるノウハウを一元化するためにグローバル&エンジニアリング(G&E)グループを発足させました。その主たるミッションは深冷分離、吸着分離、水素製造、極低温ガスアプリケーションなどの技術を核として、グローバル事業の成長を加速させること。もうひとつは開発部門と事業会社との連携を深めて研究開発から商品化までをスピードアップさせることです。また、さまざまな海外事業会社をタイムリーかつ一元管理するグローバルマネジメント部を通じて、財務、連結管理、業務監査などの事業管理機能の実効性を高めていきます。
当社はこれまでの海外進出を通じて多種多様な人材や技術などのリソースを獲得してきました。今後はグローバルでエンジニア人材のデータベースを整備し、人材戦略に活用。採用、育成で早期にグローバル人材の戦力化を図り、多様な人材と技術を掛け合わせることでリソースを融合し、複雑化する社会課題にソリューションを提供していきます。
大塚 茂樹
エア・ウォーター㈱
取締役 常務執行役員
グローバル&エンジニアリンググループ担当
兼エンジニアリングセンター長
インド事業
世界で最も成長が著しいインドの産業ガス市場。高度経済成長を背景に、自動車や建材への鋼材需要拡大により鉄鋼業に用いられる酸素の使用量はさらなる増加が見込まれています。
インド市場基本戦略
- 鉄鋼オンサイトガス供給の新規獲得
- ガス製造拠点拡充によるインフラネットワークの構築
大型M&A を通じて業界3 位のポジションを獲得
当社は2013年にインド市場に参入後、2019年に実施した東部・南部の鉄鋼オンサイト拠点の大型M&Aを起点としながら現地の産業ガスメーカーとしての信頼感を高め、同国3位のシェアを有します。
国営鉄鋼公社向けオンサイトガス供給案件を獲得
日本政府は、インドと政治・社会・安全保障などの領域で多面的に結びつきを強めており、なかでも経済面での連携強化が進んでいます。こうしたなか、当社は2023年9月、インド国営鉄鋼公社であるSteel Authority of IndiaLimited(SAIL社)から同国東部のドゥルガプル製鉄所向けオンサイトガス供給を受注しました。日系企業である当社がインド国営企業との間で大型事業に取り組むことは、日印経済連携のなかでも重要な意義を持ちます。今後、約135億円を投じて、グローバルエンジニアリング体制のもと、日本・インド・米国のエンジニアリング力を結集し、最新鋭の大型深冷空気分離プラントの設計・製作を進め、2025年10月にガス供給を開始する計画です。当社において、インドで初となる大型深冷空気分離プラントの受注であると同時に、タタスチール向け(ジャムシェドプル工場)、JSWスチール向け(ベッラーリ工場)に続く、同国3カ所目の鉄鋼向けオンサイトガス供給拠点となり、飛躍的な成長に向けた着実な一歩を踏み出しました。
インド全域における事業展開を見据えたネットワーク構築
2024年3月には、これまで未進出であった北部エリアに充填工場が稼働、さらに2024年10月には南部の主要都市チェンナイに液化ガス製造プラントの稼働を予定しています。今後も需要に見合った設備投資を実行し、事業エリアをインド全域に広げ、鉄鋼メーカー向けオンサイトガス供給事業を基軸に、製造・輸送・販売インフラのネットワーク構築を進めるとともに、水素、ヘリウム、レアガスなどガス種の拡充とあわせ、同国2位のポジションを目指します。また、将来的には、同国への進出が期待される半導体産業に向けたガス・関連機器、さらに、バイオガスや医療、食品分野など多様な事業を展開し、2030年に1,000億円の事業規模を目指します。
日印パートナーシップの一環で、
COOの松林がモディ首相と会談
北米事業
北米は産業ガスの世界最大のマーケットであり、年平均4.5%の市場成長が見込まれる有望市場。半導体などの主要な産業に加え、水素サプライチェーンの構築など、先進的な取り組みが行われています。
北米市場基本戦略
- 「 米国版VSUモデル」戦略の展開
- 付加価値の高いヘリウムやグリーン液化水素事業の確立
新たな需要が生まれる世界最大の市場へ進出
北米は、日本の約5倍の規模(約3兆円)を持つ世界最大の産業ガス市場であり、先端技術分野が集積するのみならず、脱炭素関連をはじめ世界に先駆けて産業ガスの新しい用途開発やガスアプリケーションが生み出される市場です。北米市場を開拓するうえでの当社の強みは、高効率なガス精製・分離技術と深冷空気分離装置の設計・製作ができるエンジニアリング体制です。産業ガスの事業の展開を見据え、2016年に北米市場に参入以降、低温機器メーカーやプラントエンジニアリング会社の買収を通じて事業基盤を構築し、北米市場での存在感を高めるとともに、現地パートナーとの連携に取り組んできました。
産業ガス事業に本格参入
こうしたなか、当社は2022年より北米で産業ガス事業を開始しました。現地ディストリビューターのM&Aやアライアンスにより、販売機能を獲得しつつ、その周辺に自社のガス製造拠点を設置していく「米国版VSUモデル」が市場開拓の戦略です。2023年8月に米国ニューヨーク州において、当社初のガス製造拠点となる大口需要家へのオンサイトガス供給案件を獲得。これに先行する2022年5月には、同地を地盤とする産業ガスのディストリビューターを買収しており、製造から販売まで一貫したガス供給事業を開始します。また、2023年4月には、ハイテク産業が立地するアリゾナ州を地盤とするディストリビューターを買収し、事業エリアの拡大を進めています。さらに、2023年9月には北米全域を事業エリアとするヘリウム販売会社を買収。付加価値の高いガス種の取り扱いを拡充し、総合提案力を高めることで、半導体をはじめとする成長産業の需要を取り込みます。
脱炭素需要を事業成長に取り込む
現在、脱炭素関連の需要が急速に拡大する米国において、高い技術レベルが要求される液化水素タンクやCO₂回収装置の製造・販売を手掛けています。また、米国最大のモビリティ向け水素販売事業者であるFirstElement Fuel社へ出資し、液化水素タンクやリチャージャー※の供給を通じて、水素サプライチェーンの構築に取り組んでいます。今後さらに、CO₂回収やグリーン液化水素の製造・供給に取り組むとともに、米国で獲得した先端技術やノウハウを日本など他の地域にも展開していく構想です。
※液化水素の輸送とガス水素の充填が1台で可能となる移動式水素ステーション