コーポレート・ガバナンス 社外取締役座談会

2030年に目指す姿「terrAWell30」を策定したエア・ウォーターグループの強みと課題を、社外取締役に伺いました。

松井 隆雄

社外取締役

1982年 10月
監査法人朝日会計社[現 有限責任あずさ監査法人]入社
2010年 7月
有限責任あずさ監査法人パートナー
2014年 9月
同監事
2020年 6月
当社取締役(現)

坂本 由紀子

社外取締役

1972年 4月
労働省[現 厚生労働省]入省
1996年 4月
静岡県副知事
2002年 8月
厚生労働省職業能力開発局長
2004年 7月
参議院議員
2014年 6月
当社取締役(現)

千歳 喜弘

社外取締役

1971年 4月
日立マクセル㈱[現 マクセルホールディングス㈱]入社
2016年 6月
同代表取締役会長
2017年 10月
マクセルホールディングス㈱ 代表取締役会長およびマクセル㈱取締役会長
2022年 6月
当社取締役(現)

Q: 当社のガバナンス体制に対してどのような印象を持っていますか?
課題があればあわせて教えてください。

坂本: 内部統制システムがしっかり構築されていると思っています。内部監査部門が組織的に機能し、経営層の意識も高いと思います。
社外取締役がそれぞれの経験を踏まえて活発に発言し、経営層もそれを受け止めて、当社のガバナンス体制は有効に機能していると感じています。

松井: 当社のガバナンス体制は年々充実化してきています。特に、取締役会の議題に関する事前説明会での議論は非常に活発です。ひとつの議題に1時間ぐらい時間をかけることもあり、取締役会での審議における論点整理に非常に役立ちます。

千歳: 取締役会の議論は、非常に風通しが良いと感じています。自分自身が思ったことを必ず発言できていることに加え、各社外取締役の専門分野に基づく役割がうまく組み合わさって、さまざまな角度から活発な議論ができています。

坂本: 今年、国がプライム市場上場企業を対象に2030年までに女性役員の比率を30%以上とする目標を示しましたが、当社の取締役会においてもさらなる多様性が必要と考えます。現在、女性役員は1名なので、ガバナンス体制としてこの比率を引き上げたほうが良いのではないかと思います。
また、グループ会社が多く海外子会社も増加傾向にあることで、内部監査部門が奮闘してはいるものの、グループ全体としてのガバナンスの浸透については少しばらつきがあり、さらなる内部統制の強化が必要であると認識しています。

千歳: 課題としては、多方面におけるガバナンスの目線がまだ十分に足りていないことです。社外のさまざまなステークホルダーの目線を取り入れてガバナンスを強化することが必要だと思いますが、当社はまだ社内目線が中心であるという印象です。今の時代、内部の充実化と外部目線の取り入れの強化を両立させていくことが大事だと思います。

Q: 当社におけるご自身の役割についてどのようにお考えですか?

坂本: 特に3つの点を重視して取り組んでいます。1つ目は、ダイバーシティの実現を加速させていくこと。社会の変化はすさまじい速さで進んでいるので、当社の今のスピードをさらに加速させていかなくてはいけないと思います。2つ目は、人材の育成へのアドバイス。人材こそが企業の宝、企業の成長を支えますので、これも重要であると考えています。3つ目は、従業員が高い満足度を持って業務に取り組み、社会の発展に貢献できることです。特に当社の目指す健康長寿社会の実現、地球環境の保全などの社会貢献とワークライフバランスなどの働く環境の整備に積極的にアドバイスしていきたいと考えています。

松井: 社外取締役は株主をはじめとするステークホルダーに対して責任がありますので、単なるアドバイザーではなく、執行サイドの業務運営に対してしっかりと監督・モニタリングしていかなければならないと考えています。ですから、言いにくいことでも、35年間、監査法人に在籍していた知見を活かして発言することを心がけています。加えて、社外のステークホルダーからの視点で違和感がある場合は、必ず発言するようにしています。また、空気を読まないこともあわせて心がけています。

千歳: 4つの役割があると考えています。1つ目は、当社の各事業を深掘りしたうえでの社外取締役としてのアドバイス。当社は産業ガスを祖業として他の事業領域を拡大してきましたが、ガス以外の事業をもっと深掘りしたうえでアドバイスを行いたいと考えています。2つ目は、事業体を横断する横串機能についてのアドバイス。3つ目は、社外のステークホルダーの皆さまからの目線をきちんと経営に反映させること。そして4つ目は、社外のステークホルダーの皆さまに当社についてより理解していただくための発信力の醸成を促していくことと認識しています。

Q: 社外取締役の視点で見た、当社の強み・弱みをどのようにお考えですか?

坂本: 非常に幅広い事業領域、多様なグループ会社があることが強みであり、と同時にこれは弱みになる可能性もありますから、心して取り組んでいかないといけないと思います。また、一人ひとりの従業員がチャレンジ精神を持っていることは大きな強みであり、これがあるからこそ当社がさらなる成長を実現できると考えています。

松井: 当社は、多様な事業を展開しグループ会社も多いことから、事業間のシナジーを創出できることが強みです。一方で、こうしたシナジーや M&Aした会社のPMIの成果を数字でうまく社外に開示できていないため、株価としての評価につながっていないことが弱みであるという印象があります。今後、こうした点を改善し、もっと社外に情報を開示していくことが重要であると考えています。

Q: 次世代経営人材の育成に向けてさまざまな取り組みを行っていますが、当社の人的資本戦略について、どのように評価していますか?

坂本: 当社は従業員が比較的若いうちからグループ会社で経営経験を積む機会を与えており、それが経営層の育成に寄与していると感じています。また、社内公募制とともに2022年度に導入されたミッショングレード制が今後有効に機能して成果を挙げていくことが期待されます。
女性活躍についても、この10年間で大きく前進しました。経営トップに女性活躍に対する高い見識があったこと、女性自身が積極的に意識啓蒙や環境整備に取り組んできたことが大きな要因だったと思います。
ただ、海外展開に力を入れている当社としては、これに満足せずに、さらに若い世代や外国人、一層の女性の活躍に取り組むなど世界標準を目標にして進んでいくことが大切だと考えています。

松井: 社内公募制など、人材活用・育成につながる取り組みが矢継ぎ早に導入されているのは良い傾向だと思っています。当社は多様な事業を展開するだけでなく、事業フィールドも海外に広がっていますので、次世代の経営人材については、営業部門だけではなく、企画・人事などさまざまな部門を経験することで企業経営に不可欠なスキルを身に付けることが必要だと考えています。

千歳: 今、大学の客員教授もしていますが、人材教育、特にものづくりの経営人材の育成が課題だと考えています。 私は、これまでの職歴のなかで人材教育にとても注力してまいりました。特に技術系の従業員は皆バックグラウンドが違うので、単発的に教育しても理解の中身がどうしても変わってきてしまうことがあります。ですから、人材教育においては、ケーススタディーを設定して、皆の間で共通の価値観や用語を作っていくこと、そのために、期間を決めて、かつある程度対象者を選択して教育を徹底していくことが必要だと考えています。

Q: 当社はさらなる成長に向け、海外展開を加速していますが、海外進出を積極的に進めていることに対してどのように評価していますか?

松井: 当社が成長するには海外進出が不可欠であると考えています。多様な事業領域の基軸となる産業ガス分野で市場成長が見込まれるインド・北米での事業展開を進めるのは、大いに賛成です。
ただ、実績と知見ある産業ガス事業であっても海外固有のビジネスリスクがあるでしょうし、一旦、問題が起きると大きなインパクトになるのが海外でのビジネスです。海外では親会社が子会社をしっかり管理統制しなければ、不正が起きやすい環境となりますので、その点は特に注意が必要です。海外人材の育成とあわせ、海外子会社の内部統制を強化する提言を積極的に行っていきます。

千歳: 当社の海外進出が積極的であるという印象は、私自身にはまだありませんが、成長のために海外展開を進めることは評価しています。当社は、産業ガスをはじめとしたインフラ的要素を持つ事業をベースに海外へ進出できることが強みです。また、それに加えて、多様な事業領域を持っていて、さまざまな製品やサービスを提供することができるので、それぞれの国に合ったものをうまくアレンジして持っていけば、必ず成長できると思います。
そして、海外ビジネスの拡大には現地での信頼を得るためのブランドが不可欠ですので、それぞれの国に合ったブランド力強化策を進めていく必要があると思います。
また、技術的な視点では、当社の保有する技術を知的財産の観点から正しく管理していく必要があると考えています。